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『磁力と重力の発見』三 デッラ・ポルタの『自然魔術』

 三 デッラ・ポルタの『自然魔術』
 本書はデッラ・ポルタの『自然魔術』全20巻(1589年)は、大きくは「自然は内在的な法則に支配される」を導きの意図として書かれている、と言っていると思います。デッラ・ポルタの『自然魔術』(実験魔術)は「勃興した都市市民の実生活における実際的な知識や技術の集大成であって、生活百科事典とでも言ったほうが内容をよく言い当てている」(564頁)。
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【最初で、休題ですが、『自然魔術』は「自然は内在的な法則に支配される」に導かれた「生活百科事典」と言えるようですが、ベーコンは「経験」を重視し、「学問の実践性と実用性を強調」しているわけですが、ポルタはイタリアの博学者で1538年~1615年、ベーコンはイギリスの哲学者で1561年~1626年です。山本氏は「ベーコンは、科学の目標を自然に対する支配力を獲得し、自然を人類に役立てることに設定」と述べています。
 ヨーロッパ社会をはじめ資本主義社会のブルジョア科学はいわば「自然は内在的な法則に支配される」から、その「法則」を発見し、「自然に対する支配力を獲得する」ことによって、「人間社会の生活を豊にしていく」にあるように思います。しかし、ベーコン以来、「人間社会」ー資本主義社会は、「人間社会を豊か」にしているでしょうか。ブルジョア科学は、資本から自然への一方通行・「支配」なのです。
エンゲルスは、『猿が人間になるについての労働の役割』で、真の人間(社会)の進化は、人間・生物と自然の交互作用にある、即ち、労働そのものにある、と言っています。マルクスの『労働過程論』は、人間社会の基礎は労働過程にあり、"人間は自然の一部である"から労働の構成の3つの契機を明らかにします】

「『自然魔術』は光学や磁気学の分野での実験物理学の第一歩とも言うべき内容を含んでいるのであり、簡単にネグレクトされるべきものでない」(562頁)と述べます。『自然魔術』第7巻の「磁石の不思議において」では、古代以来、磁石が金属と区別される石と見なされていたことに対し、「磁力が鉄の性質によるものとされたことは注目してよい」(584~585頁)と評価しています。デッラ・ポルタは「鉄屑を鉄板の上に置き、手を下に入れて〔手に持った〕磁石を動かしても、鉄屑は立ち上がらず、板の上でじっとしている」(586頁)、とこれまでの「磁石の不思議について」の真偽をひとつひとつ自ら検証しているのです。
 本書は、『自然魔術』第7巻でもっとも重要なことは、
 ⑴ 磁力が遠隔作用であること
 ⑵ 鉄にたいする磁化作用
 ⑶ 磁力が距離とともに減衰することを明確に語って、「力の作用圏」という概念を創りだしたことである
と指摘します。
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【遠隔作用 : 力が物質ー物体を介在することなく伝わること。無限の彼方まで力が及ぶ。19世紀、重力は遠隔作用で伝わると考えられていたが、アインシュタインの相対性理論は、重力は時間・空間のそれ自体の歪みー波と考えている。
 反対に、媒質を介在して伝わることは近接作用。19世紀末まで、宇宙全体は絶対静止の「エーテル」で満たされている考えられていた。光・電磁波はこの「エーテル」を媒質として伝わってくる、と考えていた。しかし、アメリカのマイケルソンとモーリーの実験は「エーテル」の存在を否定した(1887年)。アインシュタイン相対性理論のきっかけとなる】

 『自然魔術』は、「ろうそくの火はすべての方向に広がり部屋を明るくする。それはろうそくの近くではより明るく照明するが、ろうそくから遠ざかるにつれてその照らす力は弱まってゆき、十分遠く離れたならば消滅してしまうからである。それと同様に磁石の力はその位置から広がり、磁石に近ければそれはより強く引きつけ、遠くなるにつれて弱まり、そして十分に遠くになれば力は完全に消滅しなにも作用しなくなる。そこで私たちは、その力の及ぶ範囲を力の作用圏(Orbis virtuitis)という」(506頁)と書いているのです。本書は、デッラ・ポルタが「磁力の力が距離とともに減衰する」ことを明らかにしたことは「重大な理論的寄与とみるべきであろう」(597頁)と言っています。さらに本書は「力の伝搬と減衰をろうそくの光の放射になぞらえていることは、『力の放射』という理解を表明していると考えることもできる」(597頁)と指摘し、この「力の放射」はケプラーの「重力放射」につながるもの、と述べます。
 ここに、「磁力が魔術的な質的な作用から物理的で量的な力へと転換するその決定的な一歩をここで踏み出し、その後の物理学としての力研究の進むべき方向を指し示したものと言える」(598頁)のです。
 メルカトールの地図作成の5年後、ウィリアム・ギルバートは『磁石論』(1600年)を著します。
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ギルバートは「地球は一個の磁石でないのか」の仮説のもとに、地球に見立てた「球形磁石」をつくり、その「球形磁石」の表面において、磁針のふれを実験・観測します。まさに、ギルバートは自らの仮説を「地球が一個の巨大な磁石である」こととして検証したのです。これは近代科学の方法そのものです。
 ギルバートは地球の磁気力を「磁気発散気」と命名します。このギルバートの「磁気発散気」とデッラ・ポルタの磁力が遠隔作用としての「力の概念」となってケプラーの『新天文学』(1609年)に流れ込むのです。

第3巻 近代の始まり
 本書は近代の始まりを(コペルニクスの地動説以上に)ウィリアム・ギルバートが「地球を一個の磁石である」ととらえたことに置いていると思います。本書は同時に、
 「磁石の極を引き寄せているのが天球の極でなく地球の極であるという理解に達するのには、天動説から地動説への宇宙の転換を必要としたのである」(283頁)と述べています。「地動説」(1543年)。
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by fkus755m | 2019-10-17 08:07 | Trackback | Comments(0)

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